2024年1月に新NISAがスタートします。高校の金融教育必修化も始まっており、若者の資産形成への関心は高まっている状況です。金融広報中央委員会が行った金融リテラシー調査(2022年)によれば、定年退職後の生活費について18〜29歳では約4割程度、40代以上で7割を超える人が「意識している」と回答しています。それでは、2024年春に22歳で新社会人となる人が65歳で定年退職するまで、iDeCoと新NISAを上限までフル活用して運用したらどのくらい資産形成できるのでしょうか。若者が無理なく貯めることができるのか、結婚や子育てなどの教育費、そして老後生活にどのようなプラスとマイナスがあるのかを解説します。
iDeCoとは
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、任意加入の私的年金の制度です。自分で拠出した掛金を自分で運用して、資産形成を行います。掛金は65歳になるまで拠出可能であり、60歳以降になれば老齢給付金を受け取ることが可能です。ただし、60歳になるまでは原則として引き出すことはできません。
22歳から65歳までの43年間に拠出できる概算額は次のとおりです。
加入資格 | 拠出限度額(年間) | 43年間の合計 |
会社員・専業主婦 | 27万6千円 | 1,186万8千円 |
公務員 | 14万4千円 | 619万2千円 |
自営業者等 | 81万6千円 | 3,508万8千円 |
なお、勤務先の企業年金制度の有無や内容により金額が異なる場合があります。
iDeCoの特徴をまとめると次のようになります。
- 原則として60歳になるまで資産を引き出すことはできない
- 毎月の掛金や運用益が非課税で再投資可能
- 年金として受け取る場合は「公的年金等控除」、一時金の場合は「退職所得控除」の対象となり課税される
新NISAとは
株式や投資信託などに投資をした場合、通常は売却益や配当に対して約20%の税金がかかります。しかし、NISAはNISA口座内で毎年一定額の範囲内で投資した場合、これらの金融商品から得られる利益が非課税になる制度です。
つみたて投資枠 | 成長投資枠 | |
年間投資枠 | 120万円 | 240万 |
非課税保有限度額(総枠) | 1,800万円(ただし、成長投資枠は1,800万円中、1,200万円まで) | |
非課税期間 | 期限無し | 期限無し |
iDeCoとは異なり、毎年の掛金は所得控除の対象となりません。
しかし、投資期間中に一部を取り崩して現金化しても、空いた枠を活用し非課税のまま再投資できます。
iDeCoと新NISAを最大限活用したら
新社会人がiDeCoと新NISAを最大限に活用すると、定年退職時までの投資額の概算は次のようになります。
iDeCo | 1,186万8千円 |
新NISA | 1,800万円 |
合計 | 2,986万8千円 |
ここで算出される投資額を複利で運用すれば、老後2,000万円問題*もクリアできます。
(注)老後2,000万円問題とは、金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」による「夫が65歳以上、妻が60歳以上の夫婦の世帯で、老後20~30 年間で約1,300 万円~2,000 万円が不足する」という試算
iDeCoと新NISAの比較
22歳からコツコツと投資をしておけば老後の生活資金は確保できますが、iDeCoと新NISAをフルに活用する場合は毎月まとまった額を家計からやりくりしなければなりません。iDeCoと新NISAのどちらかを優先するか考える前に、それぞれの違いを理解しましょう。
iDeCo | 新NISA | |
税制上のメリット | ・運用益が非課税・掛金は全額所得控除・受取時に課税される(年金受取は公的年金等控除、一括受取は退職控除あり) | ・売却益や配当が非課税・投資の際は所得控除されない |
年間投資額 | 会社員は最大27万6千円 | 360万円・つみたて投資枠120万円・成長投資枠240万円 |
運用上の制限 | 原則60歳まで引き出し不可 | 売却や再投資の制限なし |
税制上のメリット
iDeCoは毎月の掛金と運用から得られる収益が非課税です。ただし、60歳以降の受取時には特別控除を受けた後に課税されます。
- 年金受取(厚生年金と同じ公的年金等控除が適用)
- 一括受取(退職金と同じ退職所得控除が適用)
一方、新NISAは投資をする際の掛金は非課税ではありませんが、運用を始めてから受け取るまで金融商品の売却益や配当金が非課税となります。
年間投資額
iDeCoの年間投資額は、会社員の場合最大27万6千円(月額2万3千円)です。毎月の給料から天引きされるので心理的負担は大きくないかも知れません。
一方、新NISAはつみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円、合計360万円となっておりiDeCoよりも高額です。
運用上の制限
iDeCoは年間の投資額が少額ですが、いったん拠出した金額は原則60歳まで引き出せません。
一方、新NISAは生涯の非課税限度額が決められており、投資の元本が1,800万円までであれば途中で売却も自由にできて、空いた枠で再投資も可能です。個人の投資家であれば十分な非課税枠と言えます。
どちらか迷ったらまずは新NISAがおすすめ
老後の生活資金は心配なものの、それに備えるために毎月投資する金額も負担も考えなければなりません。特に収入が少ない若者は負担が重く、結婚や子育てなどで資金が必要になることも考えられます。新NISAであれば、掛け金が自由で投資した資金を途中で現金化して引き出しても非課税です。しかも空いた枠で再投資も可能となっています。
一方、iDeCoは毎月給与天引きでコツコツと資産形成を図るのに便利です。途中で引き出しはできませんが、掛金が全額所得控除され、将来の生活資金を貯める上では堅実な方法です。
自分のライフプランに合わせて、iDeCoと新NISAを活用していきましょう。